保育士をやめたいと考える人の中には、今の保育園から離れて転職したり、改めてキャリアアップを目指したりということを検討している人もおり、処遇改善制度について知っておくことは今後を考える上で重要です。
このページでは、保育士の処遇改善制度の内容や、「処遇改善等加算Ⅰ」と「処遇改善等加算Ⅱ」の違いなどについて、詳しく解説しています。
保育士の「処遇改善制度」とは、保育士の労働条件や給与待遇といった処遇を改善し、保育士の離職率を減少させて保育士不足を解消する目的で、平成25年に政府がスタートさせた公的な補助金制度です。
補助金(処遇改善手当/処遇改善交付金)は子ども・子育て支援法にもとづいて、国が2分の1を、残りを都道府県や市町村といった自治体が負担します。
※参照元:内閣府子ども・子育て本部「平成30年度子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料」
(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/administer/setsumeikai/h300820/pdf/s1-1.pdf)
現代は全国各地で待機児童問題などが深刻化しており、子どもの保育を支える保育士は問題解決に欠かすことのできない人材とされています。しかし、それにもかかわらず保育士の負う責任や業務の内容と、給与待遇などの雇用条件のアンバランスさは以前から指摘されており、業務負担に対して給料が安すぎるといった問題は、保育士がやめたいと考える大きな理由の1つとされています。
処遇改善制度は、そういった保育士に対する不平等や不条理を解消して、勤続年数に応じて昇給を実現したり、新たな役職を設けたりといったことを推進するための制度です。
処遇改善制度には、大きく「処遇改善等加算Ⅰ」と「処遇改善等加算Ⅱ」の2種類が存在し、それぞれに目的と内容が異なっています。
処遇改善等加算Ⅰは、「保育士としての経験年数に応じて基本給や賃金を改善する制度」です。処遇改善等加算Ⅰは「基礎分・賃金改善要件分・キャリアパス要件分」という3つの構成要素によって支えられており、例えば10年以上の平均経験年数で最大18%の給与加算が見込まれます。
保育園や施設に勤める職員1人あたりの平均経験年数に応じて、給料が上乗せされていくシステムです。加算率は2~12%となっており、平均経験年数が増えるごとに加算率も上昇します。
平均経験年数10年までは給料の5%、11年以上になると給料の6%が加算されます。ただし、賃金改善計画と実績報告を提出して、基準年度から賃金改善を行っている施設が対象です。
なお、キャリアパス要件を満たさない場合、加算率は3%(もしくは4%)となります。
保育士の職務内容に応じて勤務条件や賃金体系を設定し、キャリアアップについて具体的な計画の策定や研修機会の確保、研修の実施といったことを行い、さらに職員へ周知徹底していることが条件となる加算分です。
基本的に賃金改善要件分と一体化しており、キャリアパス要件が満たされていない場合、賃金改善要件分の加算率が-2%となります。
それぞれの保育園や施設で働いている全ての保育士が対象です。
処遇改善等加算Ⅱは、副主任保育士・専門リーダー・職業分野別リーダーなどの新たな役職を設立し、キャリア(役職)に見合った追加加算を行うという制度です。
原則として処遇改善等加算Ⅰにおける「キャリアパス要件分」を満たした上で、さらに都道府県が実施している「キャリアアップ研修」を受講し、それぞれの役職に就くことが条件となります。
加算される金額は月額5千円のケースから月額4万円のケースまであり、実際の加算額は役職や経験年数などに応じて変動します。
役職に就くためには、「担当分野の研修」や「4分野以上の研修」といった条件に加え、保育士としての経験年数(3年以上・7年以上)などの条件も影響します。ただし、経験年数に関しては「おおむね」といった注釈もついており、個々の施設等の状況に応じて判断されます。
月額4万円の加算対象(経験年数おおむね7年以上・4分野以上の研修修了)
月額5千円の加算対象(経験年数おおむね3年以上・担当分野の研修修了)
少なくとも保育士としておおむね3年以上の経験を有している人であれば、積極的に地方自治体が主催しているキャリアアップ研修を受講・修了ことで、処遇改善等加算Ⅱの対象者としての資格を得られる可能性があります。また、キャリア形成が適切に行われている保育士については客観的な評価もしやすく、転職などにおいても有利になると考えられます。
キャリアアップ研修は複数の分野ごとに地方自治体が実施しており、以下はその例です。
処遇改善制度は保育園や保育施設が申請し、補助金(処遇改善手当)の受給資格を得るものです。
処遇改善制度は政府が実施している公的な補助金制度であり、基本的には都道府県から認可を受けた施設(認可施設)が対象となっています。
処遇改善手当はまず保育園へまとめて給付されます。そして、保育園が改めて各職員へ分配するといった仕組みです。そのため、人によってもらえる金額が異なることもあります。ただし、通常は経験年数やキャリアのグレードに比例して支給額が上昇していくと考えられるでしょう。
また、例えば処遇改善等加算Ⅰであれば、施設に所属している保育士の「平均経験年数」によって加算率が異なるので、施設の条件によっては同じ経験年数の保育士であっても手当の額が異なることもあります。
なお、手当は基本給とは別に支給される金額であり、自分が受け取っている手当の額は給与明細で確認することができます。
処遇改善の対象になる保育士は、各施設に勤務する「全ての職員」であり、正職員やパート、派遣といった雇用形態で区別されることはありません。
キャリアアップ研修を修了した分野については、保育士として休職したとしてもキャリアとして引き続き有効となり、復職のたびに研修を受け直さなければならないといった必要はありません。また、キャリアは都道府県を移動しても有効なので、他のエリアで転職したい場合にもきちんと経歴としてアピール可能です。
保育士の処遇改善を目的として支給される手当ですが、2019年12月に会計検査院が公表した調査結果によって、日本全国の施設で「交付金7億円が賃金上乗せに使われていない」といった実態が明らかとなりました。
処遇改善手当は施設にまとめて支払われる交付金だからこそ、その配分方法や活用の仕方は施設経営者の意識とモラルに委ねられている面もあり、実際に適切な配分がされているのかどうか、政府や自治体などが厳しく管理監督していく必要性も指摘されています。
※参照元:日本経済新聞「保育士の賃金加算7億円使われず? 会計検査院指摘」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53652990R21C19A2CR0000/)
勤務している保育士のキャリアアップが進むほど、保育施設にとっても保育の質が向上し、処遇改善手当の額も増えていくため、処遇改善制度は本来、保育業界に関わる誰もがメリットを得られる制度であるはずです。
しかし、実際にはまだまだキャリア形成に関する意識が希薄であったり、交付された手当を適正に保育士へ還元していない施設があることも事実です。また、そのような施設は経営実態に透明性がないことも多く、他の面でも問題を抱えているリスクがあります。
そのため、保育士として復職や転職を考える場合は、保育士の処遇改善についてどのような意識を持って、どのような取り組みを行っているのか、冷静にチェックしておくことが重要です。
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引用元HP:株式会社メディフェア公式HP(http://medifare.jp/)
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